ネイチャーポジティブは自然環境の損失を止め、回復に向けて積極的に動く新たな理念です。2020年を基準に2030年までに自然の損失を止め、回復させ、2050年までに完全な回復を達成することを目標としています。これは、人間の社会・経済活動が自然の豊かさを損なわず共存する未来を描くもので、世界的にSDGsの重要テーマとして注目されています。これからの経済は自然資本と深く結びつき、環境を保全しながら成長する「ネイチャーポジティブ経済」への移行が求められています。特に日本でも政策化が急速に進み、産業界や自治体、研究機関で取り組みが加速中です。
ネイチャーポジティブの基本
ネイチャーポジティブは、従来の「ノーネットロス(自然の損失と回復を相殺しゼロにする)」の段階から一歩進み、自然環境そのものを積極的に回復させ、生態系や生物多様性の豊かさを以前より増やすことを狙う新たな社会・経済目標です。ただ損失を止めるだけの自然保護ではなく、経済・社会全体の活動が、自然資本と生態系の回復と再生を推進する方向にシフトすることを意味します。
2020年を基準として2030年までに損失を食い止め、回復局面へ転換し、2050年には完全な自然共生社会へと到達することを国際的な目標として掲げています。生物多様性条約COP15やG7協議をはじめ、世界各国の政策や企業の経営戦略でもその考え方が導入され始めました。現状では、地球上の生物絶滅や生態系破壊は過去1,000万年の平均より10~100倍もの早さで進行しており、もはや「現状維持」では足りないため、積極的な回復行動が求められています。
ノーネットロスは自然損失のゼロを目指すもので、回復と損失が同量でバランスをとっている状態です。
一方、ネイチャーポジティブはその先の「プラス」状態を目標とし、再生可能エネルギーの利用や資源循環、自然に優しい都市・農村づくり、企業活動におけるTNFD(自然関連財務情報開示)対応など、幅広い領域で連携し、自然資本を豊かに育む仕組みづくりへと繋がります。
SDGsの「陸の豊かさ」「海の豊かさ」達成にも直結した考え方であり、人と自然がWin-Winとなる未来の社会モデルとして、今後より一層の注目と実践が進むでしょう。
| 概念 | 内容 |
|---|---|
| ノーネットロス | 自然の損失と回復を相殺しゼロにする |
| ネイチャーポジティブ | 自然環境を回復し、豊かさを増やす |
世界と日本のネイチャーポジティブ関連政策
ネイチャーポジティブは2021年のG7サミット「2030年自然協約」で正式に合意され、2030年までに生物多様性の損失を止め反転させる目標が設定されました。
2022年の生物多様性条約COP15で「昆明-モントリオール生物多様性枠組」が採択され、国連をはじめ各国政府・国際機関が枠組み実施を加速しています。日本政府も環境省主導でネイチャーポジティブ経済移行戦略を策定。自然資本の保全や回復、循環型経済の推進へ政策連携を進め、企業や金融・産業界にも取り組みが広がっています。民間企業では自主的な生物多様性目標設定やTNFD基準への対応が進み、国際的なルール形成にも参画しています。
| 国・機関 | 主要取り組み・指針 |
|---|---|
| G7(2021年) | 2030年自然協約の採択 |
| 日本政府 | ネイチャーポジティブ経済移行戦略 |
| 国連 | 生物多様性枠組みの実施強化 |
| 民間企業 | 生物多様性目標の設定増加 |
ネイチャーポジティブが求める社会と経済
ネイチャーポジティブは単なる環境保護を超え、自然を経済成長・福祉の基盤とする社会・産業のパラダイムシフトを促します。自然を消費資源から「共に生きるパートナー」として捉え、政策・事業戦略・金融の全体に組み込むことが求められます。
産業分野では低炭素・低汚染技術の導入、農林水産分野では持続可能な土地利用と生物多様性保全、金融分野では自然資本リスクの評価やグリーン投資拡大、生活分野では消費行動の環境配慮など、領域横断的な変革が進んでいます。2030年代以降の経済競争力と社会福祉の基盤形成に不可欠な考え方です。
| 領域 | 具体的変革例 |
|---|---|
| 産業 | 低炭素・低汚染の生産技術導入 |
| 農林水産 | 持続可能な土地利用、生物多様性保全 |
| 金融 | 自然資本リスク評価と投資拡大 |
| 生活 | 環境負荷低減の消費行動推進 |
企業に求められるネイチャーポジティブ
日本を含む世界の企業はネイチャーポジティブの理念を経営戦略に取り入れつつあり、サプライチェーン全体のグリーン化やライフサイクル評価の徹底、企業活動の透明性強化が進展しています。
グリーン調達方針の徹底により取引先全体で環境負荷を低減させたり、認証制度・監査の拡充でガバナンスを強化する事例が増えています。製品ライフサイクル評価・環境負荷の見える化は改善策の効果測定に不可欠ですが、データ取得や継続的施策の課題も残ります。社内環境教育による従業員意識向上も重要課題で、専門人材育成の急務と併せて企業の社会的責任が広がっています。
| 企業の取組例 | 主な効果 | 課題・改善点 |
|---|---|---|
| グリーン調達方針 | サプライチェーン全体の環境負荷低減 | 認証制度の拡充と監査強化 |
| 製品のライフサイクル評価 | 環境負荷の見える化と改善 | データ取得の難しさ |
| 社内環境教育 | 従業員の意識向上 | 継続的施策の確立 |
| これらの取り組み推進には専門人材の育成も急務です。 |
測定と報告の基準整備と今後
ネイチャーポジティブの実現には自然資本や生物多様性の適切な測定・評価が不可欠です。世界的に主要指標の開発が進み、日本でも生態系の多様性や炭素貯留量を数値化する研究が活発です。これらの測定は政策・経済活動の正確な判断材料となります。
| 指標例 | 測定対象 | 利用場面 |
|---|---|---|
| 生物多様性指数 | 種の数・個体数・多様性 | 企業の環境影響評価 |
| エコシステム健全度 | 森林・湿地の機能 | 地域政策決定 |
| 炭素隔離量 | 森林・土壌の蓄積炭素 | CO₂排出権取引 |
| 自然回復力指標 | 生態系の復元力 | 持続可能な開発計画 |
まとめ
ネイチャーポジティブは、未来の社会や経済に不可欠な新しい潮流です。従来の「ノーネットロス」を一歩進めて、自然の損失をゼロにするだけでなく、積極的に生態系や生物多様性を回復し、豊かさを増やしていくことを意味します。2020年を起点として、2030年までには自然の損失を止めて回復軌道に乗せ、2050年には自然が完全に回復した状態、すなわち自然と共生する世界を目指すという目標が、世界的に共有されています。
この考え方は、生物多様性条約やG7サミットなどの国際合意を通じて、政府・企業・個人の全てのレベルに浸透しつつあります。政策や経済活動、そして日常生活のあり方まで革新し、自然を〈単なる資源〉でなく「ともに未来を築くパートナー」として位置付けます。これにより産業・金融から消費行動、教育やまちづくりまで、多様な領域で持続可能性へのパラダイムシフトが進みます。
ネイチャーポジティブの実現には、行政の制度づくり、企業の経営戦略への組み込み、そして市民レベルでの環境意識と行動の変革が不可欠です。
一人ひとりが理念を知り、自分の暮らしや仕事に活かすことで、大きな社会変革につながります。今こそ、自然と共生する未来のために私たち自身が頑張る時です。