日本はSDGs達成度ランキングで世界上位に位置しながらも、環境・気候・生物多様性の分野では「要改善」と評価されており、ネイチャーポジティブへの転換が大きなカギになっています。 一方で、日本政府や企業は自然再生と経済成長を両立させる戦略を打ち出しつつあり、ここに日本のSDGs達成度を押し上げる大きな希望が見えます。
日本のSDGs達成度の現状と全体評価
SDG Index 2025によると、日本は全193カ国中20位前後に位置し、教育・インフラ・健康・安全などの分野で比較的高い達成度を示しています。 しかし、気候変動(目標13)や海と陸の生態系(目標14・15)、ジェンダーや不平等の分野では「大きな課題が残る」と評価されており、総合評価は「課題に直面するが前進中」という段階にとどまっています。
| 評価が高い分野 | 主な内容 |
|---|---|
| 教育・健康・インフラ | 就学率、平均寿命、基礎インフラ整備などで高水準。 |
| 経済・産業 | 資源効率や技術力などで一定の評価。 |
| 課題が大きい分野 | 主な内容 |
|---|---|
| 気候変動 | 排出削減ペースがパリ協定と整合せず「不十分」との評価。 |
| 生物多様性 | 生息地の分断、外来種、沿岸・海洋の劣化などが深刻。 |
| 資源循環 | 先行した循環型政策の伸び悩みが指摘。 |
ネイチャーポジティブから見た日本の課題
ネイチャーポジティブは、2030年までに自然損失を止めて回復軌道に乗せることを目指す世界共通のゴールであり、日本もその一翼を担うことが求められています。日本は森林率が高く、多様な生態系を持つ「潜在力の大きい国」である一方、その自然資本が静かに劣化している点が大きな課題です。
まず「森林・里山」では、戦後に拡大した人工林が高齢化する一方、林業の採算悪化や担い手不足により間伐・下草刈りが十分行われていない地域が多く見られ、その結果、樹木が過密で細く成長し、生物多様性の低下や土砂災害リスクの増大が懸念されています。かつて人の手が入ることで維持されていた里山も、過疎化と高齢化で管理が滞り、竹林の拡大や外来種の侵入など、景観と生態系の両面で変質が進んでいます。
「都市と沿岸域」では、臨海部の埋め立てや港湾整備、護岸のコンクリート化によって、干潟・砂浜・藻場など沿岸生態系が減少してきました。これらの場は稚魚や貝類、海藻など多くの生き物のゆりかごであり、同時に波浪緩和や炭素貯蔵といった機能も持ちます。失われた沿岸湿地や藻場をどう再生するかは、ネイチャーポジティブの象徴的なテーマの一つです。
「気候とエネルギー」では、再生可能エネルギーの導入が進む一方で、依然として化石燃料の比率が高く、排出削減の速度は1.5度目標と整合していません。加えて、「クリーン」をうたいながら自然破壊や追加的な排出を引き起こす可能性のある技術や事業も議論になっています。たとえば、大規模バイオマス発電に伴う海外森林資源への依存や、立地によっては生態系への影響が懸念される再エネ設備など、「気候に良くても自然に悪い」ケースをどう避けるかが課題です。
また「フットプリント」の問題があり、日本は食料や木材、鉱物資源などを海外から大量に輸入しており、その裏側で熱帯林の伐採や海洋資源の乱獲、劣悪な労働環境といった問題が生じている例が指摘されています。国内の環境指標だけを見ると状況が良好に見えても、消費スタイルを通じて他国の自然損失に加担している可能性があるため、「輸入品の森林破壊ゼロ」「サステナブルな水産物の調達」など、国境を越えたネイチャーポジティブの視点が不可欠です。
日本の課題は「豊かな自然を持ちながら、それを維持・再生する社会の仕組みが追いついていない」点にあります。里山・沿岸・エネルギー・フットプリントという各領域で、気候だけでなく生物多様性と自然資本を同時に見る視点を持つことが、2030年に向けてネイチャーポジティブへ転じるための第一歩になります。
| 課題領域 | 具体的な状況 |
|---|---|
| 森林・里山 | 高齢化・担い手不足により手入れが行き届かず、生物多様性と防災機能の低下が懸念。 |
| 都市と沿岸域 | 沿岸開発・港湾・人工護岸により干潟や藻場が減少。 |
| 気候とエネルギー | 化石燃料依存が依然として高く、「クリーン」と称するが排出削減につながらない技術への懸念も指摘。 |
| フットプリント | 食料や木材などの輸入を通じた海外森林破壊・海洋資源圧力。 |
政策面の希望:ネイチャーポジティブ経済戦略とロードマップ
日本政府は、2030年までにネイチャーポジティブを実現するため、「国家生物多様性戦略」や「ネイチャーポジティブ経済への移行戦略」「自然ポジティブ実現ロードマップ」などを相次いで策定しています。 これらの文書では、自然資本を経済成長の土台と捉え、企業・自治体・金融機関が協働して自然再生ビジネスを拡大することで、2030年に約47兆円規模の新たなビジネス機会が生まれると試算されています。
| 主な政策文書 | ネイチャーポジティブとの関係 |
|---|---|
| 国家生物多様性戦略2023–2030 | 30by30達成や生息地再生、外来種対策などを包括的に整理。 |
| ネイチャーポジティブ経済への移行戦略 | 自然資本を軸にした成長戦略として、企業の自然関連情報開示や投資を促進。 |
| ネイチャーポジティブ実現ロードマップ | 2030年に向けた政府・企業・自治体の具体的行動を示し、ビジネス機会規模を約47兆円と試算。 |
企業・金融セクターで伸ばせるネイチャーポジティブ
日本の企業・金融機関は、これまで省エネ・省資源や環境配慮型製品で一定の実績を積んできましたが、今後は生物多様性・自然資本を組み込んだ経営が競争力の源泉になると見込まれています。 サプライチェーン全体の自然リスク管理や、自然再生インフラ・再生型農林水産業・観光などへの投資は、日本の技術と地域資源を生かせる有望分野です。
| 伸ばせる分野 | 方向性 |
|---|---|
| ネイチャーポジティブ経営・開示 | TNFDなどを活用した自然関連リスク・機会の可視化と宣言。 |
| グリーンインフラ・自然再生 | 都市の雨水管理、河川・沿岸の自然再生、森づくり事業など。 |
| 再生型農林水産業 | 里山・里海再生と結びつけたブランド化・観光連携。 |
| 自然資本を活かす観光・教育 | エコツーリズムや自然をテーマにした学習・ウェルビーイングビジネス。 |
地域と市民が力を発揮できるポイント
SDGs達成度を底上げするには、国の政策と企業の取り組みに加え、地域と市民の参加が不可欠です。 日本各地では、里山保全、河川・海岸クリーンアップ、市民科学(生き物観察データの共有)、ネイチャーポジティブ・ワークショップなど、草の根の取り組みが広がっており、これらをうまく束ねることでSDGsとネイチャーポジティブの相乗効果が期待できます。
| レベル | 具体的なアクションの例 |
|---|---|
| 自治体 | 30by30に貢献する保全地域指定や、グリーンインフラを組み込んだ都市計画。 |
| 企業・NPO連携 | 企業ボランティアと地域団体が協働する森・川・海の再生活動。 |
| 市民・学校 | 生物多様性観察会、SDGs・自然ワークショップ、ローカルフードの消費など。 |
まとめ:ネイチャーポジティブで日本のSDGs達成度を
日本のSDGs達成度は世界的に見れば高い水準にありますが、気候・生物多様性・資源循環といった自然関連分野では依然として大きな課題を抱えています。
しかし、ネイチャーポジティブ経済戦略や国家生物多様性戦略、企業・金融・地域による自然再生ビジネスの拡大は、日本が得意とする技術と地域資源を活かしながらSDGsのギャップを埋めていくための大きなチャンスです。 政策・ビジネス・市民の行動を結びつけ、「自然を守ることが成長と豊かさにつながる国づくり」を進めていくことが、日本のSDGs達成度を一段引き上げる最も有望な道と言えます。