ネイチャーポジティブを実現する森との付き合い
森林保全とネイチャーポジティブ
森林保全は、SDGs全体の「土台」とも言える重要なテーマです。
森林は二酸化炭素を吸収して蓄えることで地球温暖化の緩和に貢献し、多種多様な動植物のすみかとして生物多様性を支えて、土壌の流出を防ぎ、水を蓄えて少しずつ川へ流す「緑のダム」として、水害や渇水のリスク低減にも役立っています。このように、森林を守り育てることは、気候・生態系・水・防災・暮らしを一気通貫で支える行為です。
近年注目されている「ネイチャーポジティブ」という考え方は、これまでの「環境負荷を減らす」だけのアプローチから一歩進み、「自然を回復させ、全体としてプラスにする」ことを目標に据えています。2030年までに自然の損失を止め、2050年には回復軌道に乗せることが国際的な方向性として掲げられており、森林との付き合い方も単なる保護ではなく、「守る+再生する」視点が不可欠になっています。つまり、破壊を減らすだけでなく、すでに傷んだ森を再生し、より豊かな生態系へと育てていく姿勢が求められています。
森林保全は「伐採を抑える」だけでは不十分で、間伐や下草刈りによって光や水が行き渡るように整え、必要に応じて植林を行い、長期的な視点で森全体の世代交代をデザインすることが重要になります。人工林を放置すると、木が細く弱くなり、生物多様性も低下しがちです。計画的な手入れと多様な樹種の導入によって、災害に強く、気候変動にも適応しやすい森へと更新していくことが、ネイチャーポジティブな森林経営と言えます。
森林保全とネイチャーポジティブは、複数のSDGs目標と密接に関係しています。まず目標13「気候変動に具体的な対策を」では、森林は代表的な自然ベースの気候解決策として位置づけられ、保全と再生が排出削減・吸収量拡大の両面で注目されています。
目標15「陸の豊かさも守ろう」では、森林生態系の保護と回復、違法伐採の防止、劣化した土地の修復が主要なターゲットです。さらに目標12「つくる責任つかう責任」では、木材・紙製品の持続可能な調達や、認証材の利用、リサイクル、過剰消費の是正などを通じて、森へのプレッシャーを減らすことが求められています。
森林保全は地球温暖化対策、生物多様性保全、水と土壌の保全、防災・減災、持続可能な資源利用を同時に進める「多機能プラットフォーム」です。
そしてネイチャーポジティブの時代には、単に森林伐採を抑えるだけでなく、間伐・植林・多様な森づくりを通じて、自然の力そのものを回復・強化していくことが不可欠になります。個人や企業、自治体が、日々の木材利用や森との関わり方を見直すことが、2030年に向けて「自然の損失を止め、プラスに転じさせる」ための具体的な一歩となります。
SDGsが求める森林保全の役割
SDGsが示す森林の役割は、「地球環境の安定装置」と「地域の暮らしと仕事を支えるインフラ」の両面にあり、森林を単に伐採と保護の対象として見るのではなく、気候・生物多様性・水・雇用など複数の目標を同時に支える基盤として捉えている点が特徴です。適切に管理された森林は、CO₂吸収源として地球温暖化を抑え、豊かな生態系を守りつつ、地域経済にも貢献します。
まずSDGs目標13「気候変動」において、森林は巨大なCO₂吸収源として位置づけられ、成長する木々は光合成で二酸化炭素を取り込み、幹や土壌に炭素として蓄えます。長期的な視点で森林を増やし、劣化した森を再生していくことは、ネットゼロ達成や1.5度目標に向けた「自然を活用した気候解決策(Nature-based Solutions)」の重要な柱です。
次に目標15「陸の豊かさも守ろう」では、森林は陸域生態系の中核として、生息地の保護・回復、絶滅危惧種の保全、違法伐採の防止などの面で重視され、天然林の保全や、単一樹種の人工林から多様な樹種構成への転換は、生物多様性の回復だけでなく、病害虫や気候変動に強い森づくりにもつながります。
SDGs目標6「安全な水とトイレ」とも森林は密接に関係し、健全な森林は雨水をゆっくりと土壌にしみ込ませ、地下水や川の水量を安定させる「水源涵養機能」を持ちます。また、落ち葉や土壌微生物による自然の浄化作用で、水質を保つ役割も担っています。そのため、上流域の森林保全は下流の飲料水や農業用水、浄水コストにも直結します。
さらに目標8「働きがいと経済成長」の観点から、森林は持続可能な林業や木材産業、エコツーリズムの舞台として地域雇用を生み出す資源で、伐って終わりではなく、再植林・間伐・加工・観光などを組み合わせた「循環型の森林ビジネス」を構築することで、若者の仕事や地域ブランドづくりにもつながります。役割を最大化するため、企業や自治体はCO₂吸収量、保全面積、植林本数、エコツアー参加者数などのKPIを設定し、森林保全を数値目標として管理し始めています。
森林をきちんと管理することは、SDGsの複数目標を同時に前進させるレバレッジポイントであり、「守るためのコスト」ではなく「未来への投資」として位置づけ直すことが求められています。
| SDGs目標 | 森林との関係 |
|---|---|
| 13 気候変動 | CO₂吸収源としてネットゼロ目標に貢献 |
| 15 陸の豊かさも守ろう | 生息地の保護・回復、違法伐採の防止 |
| 6 安全な水とトイレ | 森林が水源涵養と水質保全に寄与 |
| 8 働きがいと経済成長 | 持続可能な林業やエコツーリズムの雇用創出 |
ネイチャーポジティブな森づくりのポイント
ネイチャーポジティブな森づくりの核心は、「植える」「育てる」「使う」「還す」という循環を切らさないことです。
この4ステップを回し続けることで、森林は木材やレクリエーションの場として利用されながら、同時に生物多様性を高め、CO₂吸収や水源涵養といった自然の機能を強くしていくことができます。以下では、それぞれのステップのポイントを整理します。
まず「植える」では、ただ本数を増やせば良いわけではありません。土地の気候・土壌・水条件に合った樹種を選ぶ「適地適木」と、在来種を中心とした多様な樹種構成が重要です。単一の樹種だけを植えると成長は早くても、病害虫や気候変動に弱くなりがちで、生物多様性も限定されます。落葉樹と常緑樹、高木と低木を組み合わせることで、鳥や昆虫、土壌生物まで多様な生き物が暮らせる森の基礎ができます。
次に「育てる」段階では、間伐や下草刈り、シカ食害対策など、成長段階に応じた手入れが欠かせず、幼齢期は光を確保するための除伐・間伐、中齢期以降は風通しや根張りを良くするための間伐を行うことで、1本1本の木が太く健全に育ちます。また、シカが若木の芽を食べてしまう地域では、防護ネットや植生管理が必要です。適切な手入れを継続することで、災害に強く、多様な生物が棲める立体的な森へと成熟していきます。
三つめの「使う」は、伐採した木をどう活かすかの段階で、森林認証を受けた材や地域の木材を優先的に利用し、長く使える建材や家具などに加工することがポイントです。短命な消費財ではなく、住宅や公共施設など耐用年数の長い用途に使えば、炭素を長期間固定できるだけでなく、地域の林業・製材業を支える雇用にもつながります。また、地元材の利用は輸送に伴うCO₂排出を減らし、地域経済の循環を促す効果もあります。
最後の「還す」では、伐採跡地の再植林と、伐倒木や落ち葉を土壌に戻すプロセスが重要で、皆伐したまま放置すると、土壌流出や外来種侵入が起こりやすく、生態系が貧弱になります。伐採を計画的に行い、すぐに再植林すること、太い枝や一部の倒木、落ち葉を林内に残しておくことで、土壌生物の餌や隠れ家が維持され、森の栄養循環が保たれます。枯木や倒木は、多くの菌類・昆虫・小動物にとって貴重な住処であり、腐植を通して新たな樹木の成長を支える土壌がつくられていきます。
「植える」「育てる」「使う」「還す」の4ステップが循環してはじめて、森林はネイチャーポジティブな状態に近づきます。一度きりの植林キャンペーンや、利用だけに偏った伐採ではなく、長期的な森のライフサイクルを見据えた管理こそが、木材利用と生物多様性保全を両立させる鍵と言えます。
| ステップ | 具体的な行動例 |
|---|---|
| 植える | 適地適木を考えた植林、在来種を中心とした多様な樹種構成 |
| 育てる | 間伐・下草刈り・シカ食害対策など、成長段階に応じた手入れ |
| 使う | 認証材や地域材を優先的に利用し、長く使える製品に加工 |
| 還す | 伐採跡地の再植林、伐倒木・落ち葉を土壌に戻し生態系を維持 |
企業・自治体の森林保全とパートナーシップ
日本各地では、企業・自治体・住民が協働する森林保全の取り組みが広がっています。 企業の森づくり活動や、上流と下流の自治体が連携して水源林を守るプロジェクトは、ESG投資や地域ブランドの向上にもつながり、ネイチャーポジティブな価値創造の好例です。
| 主なプレーヤー | 役割 |
|---|---|
| 企業 | 森林整備への資金・人材提供、森と自社事業のつながり発信 |
| 自治体 | 森林管理計画の策定、ルールづくり、地域調整 |
| 住民・ボランティア | 植林・間伐・清掃など実地活動と環境学習 |
| 専門家・NPO | 森林認証、生物多様性調査、技術指導 |
日常生活でできる森林との付き合い方
森と直接関わる機会が少なくても、消費や働き方を通じて森林保全に参加することができます。 認証付き木材や紙製品を選ぶ、プラスチックの過剰利用を減らす、森でのボランティアに参加するといった行動は、小さく見えてもネイチャーポジティブな変化の一部になります。
| 行動例 | ネイチャーポジティブへの効果 |
|---|---|
| 認証材・国産材を選ぶ | 違法伐採を防ぎ、持続可能な林業を支援 |
| 紙の適正利用とリサイクル | 森林資源の循環を促進し、伐採プレッシャーを軽減 |
| 森林ボランティア参加 | 間伐・植林など現場の人手不足を補い、学びにもなる |
| エコツアー利用 | 地域の自然保全と観光収入の両立を後押し |
教育・観光とつなげる森の活かし方
森林保全を進めるうえで、教育や観光と結びつけることは非常に有効です。 学校教育での森林体験学習や、森を舞台にしたエコツーリズムは、次世代の環境意識を育てると同時に、地域経済を支える新しいビジネスにもなります。
| 分野 | 具体例 |
|---|---|
| 学校教育 | 森林フィールドワーク、植林体験、流域学習プログラム |
| 観光 | 森林セラピー、トレッキングツアー、林業体験型ツアー |
| 地域産業 | 地域材を使った宿泊施設やカフェ、木工クラフト |
| 情報発信 | 森の再生ストーリーをWebやSNSで共有し共感を拡大 |
まとめ:森との付き合い方をネイチャーポジティブに変える
森林保全は、「伐らないこと」だけでなく、「上手に育てて循環させること」によってはじめてネイチャーポジティブな成果を生み出します。 企業や自治体だけでなく、一人ひとりが認証材の選択やボランティア参加など身近な行動を積み重ねることで、森は未来世代にとってより豊かな資産へと変わっていきます。
あなた自身の暮らしの中でできる「森との新しい付き合い方」を見つけ、小さな一歩からネイチャーポジティブな世界づくりに参加していただければと思います。