SDGs未来都市のつくり方:ネイチャーポジティブを軸にしたまちづくり戦略

SDGs未来都市は、環境・経済・社会の好循環を実現する先導的な自治体として国が選定するもので、近年は「ネイチャーポジティブ」をキーワードに自然再生と地域経済を一体で高めるまちづくりが重視されています。 森・川・海・農地などの自然資本を活かしながら、防災・観光・産業・暮らしの質を同時に向上させることが、これからのSDGs未来都市戦略の軸になります。​

SDGs未来都市とは何か

SDGs未来都市は、地方創生とSDGs達成の「モデル自治体」を国が公募・選定し、計画づくりと実行を後押しする制度で、環境だけでなく、経済や福祉・教育まで含めた地域課題の解決と、将来世代まで続くまちづくりを両立させることがねらいとされています。対象は大都市だけではなく、中小都市や農山漁村も含まれ、世界農業遺産や世界遺産を持つ自然豊かな地域も多く選ばれています。

目的は、「SDGsを原動力にした地方創生・地域づくりのモデル構築」で、単発のイベントやPRではなく、人口減少や産業構造の転換、災害リスクなどの課題を、再生可能エネルギー導入やグリーンインフラ整備、地域資源を活かした観光や農林水産業の高度化、福祉・教育の充実といった政策パッケージで解決していくことが求められます。その成果を国内外に発信し、他自治体への横展開につなげることも重要な役割です。

選定基準としては、環境・経済・社会の三側面が好循環すること、取り組みが先導性や革新性を持っていること、他地域へ波及・展開できるポテンシャルがあることなどが重視されます。また、自治体全体の総合計画としての一体性に加え、「自治体SDGsモデル事業」と呼ばれる先進的プロジェクトを持っているかどうかも評価対象になります。市民参加や官民連携、長期的な財源・人材確保の見通しも、現実性を測るポイントです。

主な分野としては、再生可能エネルギーや省エネによる脱炭素、雨水浸透や都市の緑化を活かしたグリーンインフラ、防災を兼ねた公園・河川整備、世界農業遺産・里山里海を活かした観光やブランド農産物づくり、持続可能な林業・水産業、子どもや高齢者を支える福祉・教育の拠点づくりなどが挙げられ、こうした分野を組み合わせ、「環境を守りながら稼ぎ、暮らしの質も上げる」戦略を描けているかどうかが、SDGs未来都市の肝と言えるでしょう。

ネイチャーポジティブを軸にした未来都市戦略の考え方

ネイチャーポジティブを軸にした未来都市戦略では、「自然を守る」段階から一歩進んで、「自然を回復させ、その価値を地域の暮らしと経済に組み込む」ことがゴールになります。そのためには、ハード整備だけでなく、土地利用計画・産業戦略・市民参加の全てを、自然資本という共通の物差しで見直すことが重要です。

第一の要素は「自然資本の見える化」で、森林・水・農地・湿地・海・里山里海などが、どれだけの防災機能、観光価値、食料・水供給、炭素吸収量を持っているかを、地図やデータ、ストーリーとして整理します。これにより、開発と保全の優先順位が明確になり、「どこを守り、どこを再生し、どこに集中的に投資するか」という議論の土台ができます。第二は「グリーンインフラ重視」で、雨庭(レインガーデン)、透水性舗装、都市林、公園や河川敷の自然再生など、自然の機能を活かしたインフラを、防災・水管理・暑熱対策と一体で整備します。これにより、集中豪雨時の浸水リスクやヒートアイランドを緩和しつつ、生物多様性の回復や市民の憩いの場も増やすことができます。

第三は「ローカル経済との接続」で、自然再生をボランティア頼みのコストで終わらせず、エコツーリズムや再生型農林水産業、地域材を活かしたものづくりなどと結びつけます。たとえば、里山再生活動とセットにした体験型観光、藻場再生と連動したブランド水産物、グリーンインフラを取り入れた商業施設など、自然を良くするほど地域の稼ぐ力も高まる仕組みを設計します。最後に「参加とガバナンス」があり、自治体だけが計画を書くのではなく、住民・企業・NPO・専門家が参加する協議会やビジョンづくりの場を常設し、意思決定やモニタリングを共に行います。自然資本のデータや進捗をオープンにし、定期的にレビューすることで、ネイチャーポジティブな未来都市戦略は絵に描いた餅ではなく、「みんなで育てる長期プロジェクト」として継続しやすくなります。

戦略要素 ねらい
自然資本の見える化 森林・水・農地・湿地・海などの価値をデータとストーリーで把握。​
グリーンインフラ重視 雨庭・透水性舗装・都市林など、自然の機能を防災や暑熱対策に活用。​
ローカル経済との接続 自然再生と観光・農業・ものづくりを連動させる。​
参加とガバナンス 住民・企業・NPOが参画する協議会やビジョンづくり。​

グリーンインフラを活かしたSDGs未来都市

多くのSDGs未来都市では、豪雨・洪水・暑熱といった気候リスク対策と、生物多様性・景観・観光を同時に高めるグリーンインフラが核になっています。 レインガーデンや親水公園、グリーンインフラ商業施設などは、防災・環境・賑わいづくりを兼ね備えたネイチャーポジティブな仕組みです。​

自治体・事例方向性 主な特徴
三重県いなべ市「にぎわいの森」 グリーンインフラ商業施設を拠点に、緑を経済的・商業的価値として活かすまちづくり。​
川口市のレインガーデン実証 駅前道路の植栽帯を活用したレインガーデンで雨水流出抑制と景観向上を両立。​
大田区グリーンインフラ計画 防災・環境・地域振興の3視点から、公園・街路樹・河川敷の整備方針を整理。​
各地の親水公園・ビオトープ 河川・ため池を活かした防災兼ねる公園整備で、地域の自然と交流を促進。​

農山漁村・世界農業遺産地域のネイチャーポジティブな未来都市づくり

農山漁村タイプのSDGs未来都市では、伝統的な農林水産業と生物多様性保全を組み合わせた「世界農業遺産」や「里山・里海」の取り組みが重要な柱になっています。 田園景観や水田・棚田・梅林・里海などを守りながら、高付加価値な農産物・観光・教育プログラムとして展開することで、人口減少地域でも持続可能な経済循環を目指しています。​

自治体方向性 ネイチャーポジティブな要素
宮城県大崎市(世界農業遺産「大崎耕土」) 湿地や水田の生物多様性を活かした田園都市構想、グリーンインフラ型防災。​
和歌山県みなべ町 伝統的な梅林と里山管理により、土壌保全と生物多様性を維持しつつブランド化。​
高知県土佐町など水源地域 森林管理と水源保全を都市と連携した「水の循環」プロジェクトに発展。​

都市開発・不動産分野から見る未来都市のつくり方

都市開発や建設業は、土地利用や生態系に大きな影響を与える一方で、ネイチャーポジティブな都市づくりのキープレーヤーでもあります。 TNFD(自然関連財務情報開示)に沿った情報開示や、生物多様性配慮設計を導入するデベロッパーが現れ、都市の森・屋上緑化・ビオトープ・水辺再生などを組み込んだプロジェクトが増えています。​

企業・都市の取り組み方向性 ポイント
都市再開発での緑地・水辺創出 ビル群の中に公園・緑道・水路を組み込み、ヒートアイランド緩和と生息地ネットワークを形成。​
TNFD対応と自然情報開示 都市開発による自然へのインパクトを開示し、低影響・高再生プロジェクトへ誘導。​
省エネ・循環型インフラ 再エネ、雨水利用、資源循環設備を備えた「ネイチャーポジティブ版スマートシティ」。​

住民参加・パートナーシップで実現する未来都市

成功しているSDGs未来都市では、行政主導ではなく、企業・学校・市民団体・住民が連携した「共創」が共通点として見られます。 まち全体のビジョンづくりにワークショップやカードゲームを用いたり、公共空間を活用した社会実験やボランティア活動を組み合わせることで、ネイチャーポジティブな取り組みが市民の誇りや暮らしの楽しさにもつながっています。​

仕組み ねらい
SDGs未来都市推進協議会 行政・企業・大学・NPO・住民代表が集まり、計画とプロジェクトを共同で検討。​
社会実験・リビングラボ グリーンインフラやモビリティの実証を、市民参加型で行う。​
学校教育・市民科学 生物多様性調査や水質モニタリングを市民・子どもと一緒に実施。​
コミュニケーション SDGs未来都市ロゴやストーリーを使った情報発信・観光プロモーション。​

まとめ:ネイチャーポジティブを核にした未来都市への道

SDGs未来都市のつくり方は、「自然をコストではなく資本として扱う」という発想転換から始まります。 自然資本を見える化し、グリーンインフラ・里山里海の再生・再生型産業・観光・教育を組み合わせ、さらに住民参加の仕組みで支えることで、環境・経済・社会が同時に豊かになるネイチャーポジティブなまちづくりが可能になります。

SDGs未来都市を目指す自治体や企業は、ここで紹介した戦略と実例を自地域の文脈に合わせて応用し、「自然とともに栄えるまち」を次の世代へ引き継いでいくことが求められます。​