SDGs産業と技術革新の基盤をつくろう:自然再生と両立するものづくりの条件

SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」は、強靭で包摂的なインフラ整備と持続可能な産業化、イノベーションの推進を掲げています。 その達成には、気候変動や生物多様性の危機に対応しながら、自然再生=ネイチャーポジティブと両立する“新しいものづくり”の条件を押さえることが欠かせません。​

SDGs目標9とネイチャーポジティブ

SDGs目標9とネイチャーポジティブは、一見別々の概念に見えますが、「産業・インフラのあり方を変えて、自然と経済の両方を豊かにする」という共通ゴールを持っています。目標9は持続可能な産業化と技術革新に焦点を当て、ネイチャーポジティブは生物多様性と自然資本の回復を軸に据えることで、従来の経済活動の前提そのものを問い直しています。

まずSDGs目標9は、「災害に強く環境負荷の少ないインフラ」「包摂的で持続可能な産業化」「技術革新の促進」という3つの柱で構成され、道路や鉄道、エネルギー網、デジタルインフラなどを、低炭素・省資源でレジリエントな形に更新しながら、中小企業を含む産業全体の生産性向上と雇用創出を図ることが狙いです。ここでは、クリーンエネルギー、スマートグリッド、高効率設備、デジタル技術などが重要な手段として想定されています。

一方ネイチャーポジティブは、「2030年までに自然損失を止め、2050年までに回復軌道へ」という長期ビジョンのもと、生物多様性と自然資本を中心に据えた経済・社会への転換を提唱しています。森林・湿地・草地・沿岸域などの生態系を守り、劣化した場所を再生しつつ、自然が提供する水・土壌・気候調整などの恩恵(エコシステムサービス)を持続的に活用することが目的です。そのためには、開発やサプライチェーンの段階から自然への影響を評価し、「回避→最小化→復元→オフセット」という優先順位で対応することが求められます。

両者が交わるポイントは、「産業・インフラを自然にとってもプラスの存在に変える」という発想にあり、再生可能エネルギーや省エネ技術などのクリーン技術を導入したうえで、発電所や送電網、工場、都市開発の設計段階から、生息地の保全やグリーンインフラ、自然ベースの防災(河川の遊水地、森林による土砂災害対策など)を組み込むことが挙げられます。製造業では、サーキュラーエコノミーに基づき、リサイクル材・再生材・バイオ由来素材を用いた循環型生産に移行することが、目標9とネイチャーポジティブの両方に貢献する道筋です。

さらに、ICTやデジタル技術も両者をつなぐキードライバーです。衛星データやIoTセンサー、AI解析を用いて、工場や都市、サプライチェーン全体のエネルギー使用や自然への影響を可視化すれば、環境配慮型インフラの最適運用と自然再生型ビジネスモデルの設計に役立ちます。たとえば、再生可能エネルギーの発電量と生態系への影響を同時に管理したり、資源採掘から製品廃棄までの自然フットプリントを追跡して、負荷の少ない調達先へ切り替えるといった取り組みです。

要するに、SDGs目標9は「どのような産業とインフラで成長するか」を定める枠組みであり、ネイチャーポジティブは「その成長が自然にどんな影響を与え、どう回復させるか」を問う視点です。

これからのものづくりや都市開発は、この二つを同時に満たすことが前提となり、「自然資本へのプラス効果」を組み込んだインフラ・産業こそが、真に持続可能な経済成長の条件になっていきます。

自然再生と両立するものづくり

自然再生と両立するものづくりには、「資源の取り方」「つくり方」「使い方」「回収の仕組み」の4つの段階すべてで自然への影響を最小化・プラス化する設計が必要です。 サプライチェーン全体で資源利用効率を高めつつ、再生可能エネルギーや環境配慮型素材、汚染削減技術を組み合わせることで、気候・水・生態系への負荷を大きく減らせます。​

段階 ネイチャーポジティブのポイント
調達 再生可能・認証済み資源の利用、違法伐採や過剰採取の排除。​
生産 省エネ設備、再エネ電力、廃水・廃ガス処理の高度化。​
使用 長寿命設計、修理・アップグレード可能なモジュール化。​
回収・再資源化 回収スキームとリサイクル技術により資源循環を実現。​

サーキュラーエコノミーが示すビジネスモデル

製造業では、廃棄を前提とした線形モデルから、資源を循環させるサーキュラーエコノミーへの転換が進んでいます。 循環型サプライ、回収・リサイクル、製品寿命延長、シェアリングといったビジネスモデルは、資源採掘圧力を下げることで生態系への負荷を減らし、同時に新たな収益源にもなります。​

モデル 概要 自然再生への貢献
循環型サプライ 再生素材・バイオ素材を原料に活用。​ 新規採掘を抑え、生息地破壊を軽減。
回収とリサイクル 使用済み製品を回収し再資源化。​ 廃棄物と汚染を削減し、資源循環を促進。
製品寿命の延長 修理・再生・再販売で長く使う。​ 生産量を抑え、エネルギー・資源使用を削減。
シェアリング 共有プラットフォームで稼働率を向上。​ 製品点数を減らし、資源需要を抑制。

ネイチャーポジティブを支えるテクノロジー

AI・IoT・衛星データ・環境DNA解析などのテクノロジーは、自然への影響を「見える化」し、より精度の高い自然再生型ビジネスを可能にします。 工場や農地、都市インフラのモニタリングにこれらの技術を組み込むことで、水や土壌、生物多様性への負荷をリアルタイムで把握し、最適な運転や管理に活かせます。​

技術領域 活用イメージ
環境DNA(eDNA) 水や土壌のサンプルから生物相を解析し、工場排水や開発の影響を把握。​
リモートセンシング 衛星・ドローンで森林・湿地・沿岸の変化を監視。​
AI・IoT 設備の最適制御や予知保全でエネルギー・水使用を削減。​
デジタルツイン サプライチェーン全体の環境影響をシミュレーション。​

中小企業・地域産業が押さえたいステップ

大企業だけでなく、中小企業や地域のものづくり企業も、段階的にネイチャーポジティブへ近づくことができます。 まずは自社の環境負荷と自然資本リスクを棚卸しし、エネルギー・資源・廃棄物など、手を付けやすい領域から改善を始めることが現実的です。​

ステップ 具体的な取り組み
1.現状把握 エネルギー・水・原材料使用量と廃棄量、土地利用を見える化。​
2.優先課題の特定 生物多様性や地域環境への影響が大きい工程を特定。​
3.小さな投資から開始 LED化、省エネ設備更新、リサイクル材試験導入など。​
4.連携・共創 行政・大学・他社と共同で実証事業や技術導入を進める。​

まとめ:ものづくりを「自然再生のエンジン」に変える

SDGs目標9が掲げる「産業と技術革新の基盤づくり」は、単に工場を増やすことではなく、自然資本と共存しながら価値を生み出す新しいものづくりへの転換だといえます。

サーキュラーエコノミー型ビジネスモデルやネイチャーポジティブ技術を取り入れ、資源調達から生産・使用・回収までの全体を見直すことで、産業は自然破壊の原因ではなく「自然再生のエンジン」になることができます。 自社の規模にかかわらず、一つひとつのプロセスに自然への配慮とイノベーションを組み込むことが、これからのものづくりに求められる最重要条件です。​